フリーランスを辞める(休む/縮小する)と決めたとき、いちばん危ないのは気持ちが限界のまま、手続きを勢いで進めて後で揉めることです。
未入金、契約の終了、引き継ぎ、アカウント整理、税金・保険の切替——やることは多いですが、順番を固定すれば大丈夫です。
この記事では、辞める前にやることを漏れなく・揉めにくく進めるためのチェックリストと、すぐ使えるテンプレをまとめます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。契約トラブルや税務の判断は、弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。
まだ「辞めるか迷う」段階なら、判断の整理はこちらが先です。
辞める前にやることの順番
| ①お金・未入金 | 請求済み案件の入金確認、検収条件の確認(最優先) |
| ②契約・取引の終了 | 契約書の確認、終了連絡を文章で残す |
| ③引き継ぎ・納品物 | 納品物の整理、修正対応の範囲を決める |
| ④アカウント・ツール | サブスク解約、権限の棚卸し、セキュリティ整理 |
| ⑤税金・保険 | 確定申告の準備、国保・年金の切替、廃業届 |
フリーランスを辞める前に確認:今すぐ休む/縮小が必要なサイン
チェックリストを進める前に、まず自分の状態を確認してください。次に当てはまる場合は、手続きより先に体調の安全確保を優先してください。
- 睡眠が崩壊している(連日寝つけない、早朝に目が覚める)
- 動悸、希死念慮、涙が止まらない等が続く
- 仕事のミスが急増している
- 食欲がない、または過食が続いている
- 人と話すのが極端に辛い
こうした状態で手続きを進めると、判断ミスや連絡漏れが起きやすく、後からトラブルになるリスクが高まります。
まずは最低限の連絡(納期調整・状況共有)だけ行い、回復後に整理する方が安全です。クライアントへの連絡は「体調不良により対応が遅れる」という事実だけ伝えれば十分です。詳細な説明は求められていません。
「休めない」「止まれない」と感じる方は、以下の記事で対処法を整理しています。
フリーランスを辞める前にやること:全体チェックリスト
体調が保てている状態であれば、以下の順番で進めてください。順番が重要な理由は、お金と契約を先に片付けないと、後から揉めたときに交渉力がなくなるからです。
A. お金・未入金(最優先)
辞めると決めたら、最初にやるべきはお金の確認です。未入金のまま連絡が取れなくなると、回収が極端に難しくなります。
| チェック | 項目 |
|---|---|
| □ | 請求済み・未入金の案件を一覧化する(案件名/金額/入金予定日/担当者) |
| □ | 検収条件(納品→検収→支払)を契約書・メールで確認する |
| □ | 入金口座・請求書の宛名や番号に不備がないか確認する |
| □ | 根拠なく値引きや返金を飲まない(追い込まれても冷静に) |
請求書の基本や入金管理については、以下の記事で整理しています。
B. 契約・取引の終了
契約まわりは、口約束の案件ほど揉めやすいです。終了の連絡は必ず文章(メール・チャット)で残してください。
| チェック | 項目 |
|---|---|
| □ | 契約書・発注書・NDAの有無を確認する |
| □ | 途中解約の条件(通知期限/違約金/成果物の扱い)を確認する |
| □ | 口約束の案件は、終了連絡を文章で残す(言った言わないを防ぐ) |
| □ | 継続案件がある場合は、終了時期を明確に伝える |
C. 引き継ぎ・納品物の整理
引き継ぎが曖昧だと、辞めた後も連絡が来続けることがあります。納品物と修正対応の範囲を明確にしておくと、後腐れなく終われます。
| チェック | 項目 |
|---|---|
| □ | 納品物(ファイル/URL/編集権限)を確定する |
| □ | 納品後の修正対応範囲を決める(いつまで・何回まで) |
| □ | 共有ドライブ・Notion・CMSなどの権限を棚卸しする |
| □ | 引き継ぎが必要な場合は、引き継ぎメモを作成する |
D. アカウント・ツール・セキュリティ
サブスクリプションは自動更新で課金が続くことがあります。辞めるタイミングで一度すべて洗い出しておくと安心です。
| チェック | 項目 |
|---|---|
| □ | サブスク(ツール/有料素材/サーバー等)を洗い出す |
| □ | 不要なサービスは解約する(自動更新日に注意) |
| □ | 2段階認証・パスワード管理を更新する(引き継ぎ前提なら特に) |
| □ | 個人情報を含むデータの削除/返却(契約・NDAに従う) |
E. 税金・保険(後で詰まりやすい)
税金と保険は、辞めた後に届く請求で慌てる人が多い領域です。事前に方針を決めておくと安心です。
| チェック | 項目 |
|---|---|
| □ | 今年分の売上・経費を整理する(確定申告に必須) |
| □ | 国保・年金の切替方針を決める(就職/無職/配偶者扶養など) |
| □ | 廃業届を出すかどうか決める(個人事業を正式にやめる場合) |
| □ | 住民税の支払いに備える(前年所得ベースで届く) |
保険・年金の全体像は、以下の記事で整理しています。
未入金の回収:まずやること(揉めにくい順番)
未入金の案件がある場合、感情的に動くと関係が悪化して回収が難しくなります。以下の順番で、段階的に対応してください。
Step1:事実確認
まずは自分側の情報を整理します。感情的になる前に、事実を確認してください。
- 納品日はいつだったか
- 検収条件(納品→検収→支払の流れ)は何と決まっていたか
- 支払サイト(月末締め翌月末払い等)は何日か
- 請求書は正しく届いているか(宛名、金額、振込先の不備がないか)
この段階で自分側のミス(請求書の送付漏れ、金額の誤り等)が見つかることもあります。
Step2:丁寧なリマインド
事実確認ができたら、相手にリマインドを送ります。この段階では「相手のミスを責める」のではなく「確認のお願い」というトーンで連絡してください。相手側の経理処理が遅れているだけ、担当者が忘れているだけというケースも多いです。
具体的なテンプレートは後述します。
Step3:期日を区切った再送
リマインドから1週間程度経っても返信がない場合は、期日を明記して再度連絡します。
- 「◯月◯日までにご確認いただけますでしょうか」
- 「◯月◯日までにお振込みをお願いできますでしょうか」
期日を区切ることで、相手に行動を促しやすくなります。
Step4:それでもダメなら次の手段を検討
複数回連絡しても反応がない、または支払いを拒否された場合は、契約内容に沿って次の手段を検討します。
- 内容証明郵便の送付
- 少額訴訟(60万円以下の場合)
- 弁護士への相談
ただし、ここまで進むケースは稀です。多くの場合、Step2〜3で解決します。最初から強硬な態度を取ると、相手が態度を硬化させて逆に回収が難しくなることがあるため、段階的に進めることが重要です。
フリーランスを辞めるときに使えるテンプレート3選
未入金の回収、契約終了の連絡、引き継ぎメモは、文面を一から考えると時間がかかります。以下のテンプレートをコピーして、自分の状況に合わせて編集してください。
テンプレ①:未入金の丁寧なリマインド(メール/DM)
請求済みで未入金の案件がある場合に使うテンプレートです。相手を責めるのではなく「確認のお願い」というトーンで連絡するのがポイントです。
件名:ご請求書(No.◯◯)ご確認のお願い(◯◯案件)
◯◯株式会社
◯◯様
お世話になっております、◯◯(あなたの名前)です。
先日お送りした◯◯案件のご請求書(No.◯◯、金額◯◯円)につきまして、念のためご確認のお願いでご連絡いたしました。
入金予定日:◯月◯日(ご契約/ご案内の支払サイト:◯日)
請求書URL(または添付):◯◯
もし社内処理の都合等で確認が必要な点がありましたら、お知らせください。
お手数をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
――――――――――
◯◯(あなたの名前)
メール:◯◯
電話:◯◯
――――――――――
使い方のポイント
- 請求書番号、金額、入金予定日を明記して、相手が確認しやすくする
- 「社内処理の都合」という言葉で、相手側の事情に配慮を見せる
- 1回目のリマインドで返信がなければ、1週間後に期日を区切って再送する
テンプレ②:契約終了の連絡(円満に終える文面)
継続案件や業務委託契約を終了する際のテンプレートです。辞める理由を詳しく説明する必要はありません。「個人的な事情」で十分です。
件名:業務委託契約の終了について(◯◯)
◯◯株式会社
◯◯様
いつもお世話になっております、◯◯です。
このたび、個人的な事情により、◯月末(または◯月◯日納品分)をもって、◯◯業務の継続が難しくなりました。
現在進行中のタスクは以下の通り整理し、責任をもって対応いたします。
・進行中:◯◯(納品予定:◯月◯日)
・対応可能な修正範囲:◯月◯日まで/◯回まで
引き継ぎが必要な事項があれば、◯月◯日までにご共有ください。
急なご連絡となり恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします。
――――――――――
◯◯(あなたの名前)
メール:◯◯
――――――――――
使い方のポイント
- 進行中タスクの対応範囲を明記して、責任の範囲を明確にする
- 修正対応の期限・回数を書いておくと、後から追加依頼が来にくい
- 引き継ぎの期限を設定して、ダラダラ続くのを防ぐ
テンプレ③:引き継ぎメモ(箇条書きでOK)
引き継ぎが必要な場合に使うテンプレートです。完璧に書こうとせず、後任者が「次に何をすればいいか」わかれば十分です。
【引き継ぎメモ】◯◯案件
■案件概要
・案件名:
・目的(KPI):
・ターゲット:
・トンマナ:
■進行状況
・ステータス:未着手/執筆中/初稿提出/修正中/検収待ち
・納品予定日:
■納品物
・ファイル:(URL/格納場所)
・編集権限:(誰に付与済みか)
■注意点
・NG表現:
・参照すべき一次情報:
・社内ルール/レギュレーション:
■次アクション
・誰が:
・いつまでに:
・何を:
使い方のポイント
- 口頭で伝えた内容も、文章で残しておくと後から確認できる
- 共有ドライブやNotionにまとめて、URLを渡す形でも良い
- 納品物の権限(閲覧/編集)を明確にしておくとトラブルを防げる
フリーランスを辞める決断をしている人向け:廃業届と保険の手続き
チェックリストのA〜Dが片付いたら、税金・保険まわりの手続きに進みます。個人事業を正式にやめる場合は廃業届の提出が必要です。また、健康保険・年金の切替も忘れずに対応してください。
廃業届を出す場合
廃業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は、税務署に「事業を廃止した」ことを届け出る書類です。提出期限の目安は、事業を廃止した日から1か月以内です。青色申告をしていた場合やインボイス登録をしていた場合は、追加の届出が必要になることがあります。
届出の書き方、提出方法、必要書類の詳細は以下の記事で解説しています。
健康保険・年金の切替
フリーランスをやめた後の健康保険・年金は、次の働き方によって対応が変わります。
| 次の働き方 | 対応 |
|---|---|
| 会社員に転職する | 入社先の社会保険に加入。国保の資格喪失届を市区町村役場に提出 |
| しばらく無職になる | 国民健康保険・国民年金を継続、または家族の扶養に入る |
| 配偶者の扶養に入る | 配偶者の勤務先で手続き。収入要件を確認 |
届出を忘れると、保険料が二重に請求されたり、無保険期間ができる可能性があります。辞めるタイミングで方針を決めておくと安心です。
保険・年金の全体像は以下の記事で整理しています。
フリーランスを辞める前のよくある質問
ここで、フリーランスを辞める前によくある質問とその回答を解説します。
Q. 辞めた年も確定申告は必要?
基本的に必要です。年の途中で廃業しても、1月1日から廃業日までに所得があれば、翌年の確定申告で申告する必要があります。廃業届を出したからといって、申告が不要になるわけではありません。
所得が少なく申告が必要かどうか判断に迷う場合は、税務署または税理士に確認してください。
Q. 口約束の案件でも請求できる?
原則として請求できます。契約書がなくても、業務を行い成果物を納品した事実があれば、報酬を請求する権利はあります。
ただし、口約束の案件は「言った言わない」で揉めやすいため、以下を整理してから動くのが安全です。
- 納品物(ファイル、URL、提出日時)
- 金額(事前に合意したメール・チャットの履歴)
- 合意の証跡(やり取りのスクリーンショット等)
証跡がないと回収が難しくなるため、今後は口約束でも金額と納品物をチャットやメールで確認する習慣をつけてください。
Q. 辞めた後も連絡が来たらどうすればいい?
契約終了時に「修正対応の範囲」と「対応期限」を明確にしておけば、それを超える依頼は断って問題ありません。
連絡が来た場合は、以下のように対応してください。
- 対応範囲内の依頼 → 合意した内容に沿って対応
- 対応範囲外の依頼 → 「契約終了時にお伝えした通り、対応期間は終了しております」と丁寧に断る
曖昧に対応すると、いつまでも連絡が続くことがあります。線引きは明確にしてください。
Q. 辞める理由は詳しく説明した方がいい?
詳しく説明する必要はありません。「個人的な事情」「体調の都合」「今後の方針見直し」など、簡潔な理由で十分です。
理由を詳しく説明すると、引き止められたり、交渉の余地があると思われることがあります。辞めると決めたなら、理由はシンプルに伝えてください。
まとめ:フリーランスを辞める前は「未入金→契約→引き継ぎ→税・保険」の順で
気持ちが限界のときほど、順番が武器になります。このチェックリストで、まず揉めやすい部分(お金・契約)を先に潰してから、引き継ぎや税金・保険の手続きに進んでください。
改めて、やることの順番を整理します。
| 順番 | 項目 | ポイント |
|---|---|---|
| ① | お金・未入金 | 請求済み案件の入金確認が最優先。回収は段階的に |
| ② | 契約・取引の終了 | 終了連絡は必ず文章で残す。口約束ほど注意 |
| ③ | 引き継ぎ・納品物 | 修正対応の範囲と期限を明確に |
| ④ | アカウント・ツール | サブスク解約、権限整理、セキュリティ確認 |
| ⑤ | 税金・保険 | 確定申告の準備、国保・年金の切替、廃業届 |
体調が限界の場合は、手続きより先に休むことを優先してください。最低限の連絡だけして、回復してから整理する方が結果的にトラブルを防げます。
まだ辞めるかどうか迷っている段階であれば、判断の整理はこちらの記事で行ってください。
【更新履歴】
2025-12-29 公開