多くのフリーランスは「テンプレを埋めれば十分」「個人相手なら形式は緩くていい」と考えがちです。
しかし、そのままでは入金遅延や減額、取引停止につながります。
インボイス不備なら相手の仕入税額控除が使えず、信用も失います。

たとえば登録番号や税率区分の欠落に気づかず請求→経理差戻しで支払日が翌月回しに。
さらに「再発が不安」として単価見直し、次回発注が白紙になる……そんな損失は珍しくありません。

この記事では、必須項目と源泉・消費税の判断、インボイス対応と送付作法、ツール運用までを整理し、入金遅延と信頼低下を防ぎます。
焦りではなく理解から整え、継続受注につながる請求実務をつくりましょう。

目次

フリーランスが請求書を発行する理由と法的な位置づけ

請求書は、単なる支払い依頼ではなく「信頼を示すビジネス文書」です。
この章では、請求書の基本的な役割と法的な位置づけを整理します。

請求書とは?見積書や納品書との違い

請求書とは、仕事の完了後に「この金額を支払ってください」と正式に依頼する文書です。
見積書・納品書とセットで使うことで、取引の流れを明確にできます。

書類名 役割 発行タイミング
見積書 取引前に金額や内容を確認するための文書 契約前
納品書 納品内容を確認・記録する文書 納品時
請求書 作業完了後の支払い依頼。金額が確定している 業務完了後

法人クライアントでは、不備があると支払い遅延につながることもあります。
正確さと整った形式が信頼の第一歩です。

請求書を発行する義務はある?

法律で明確に義務づけられてはいませんが、取引証拠や税務管理の観点から実務上は必須です。
特にインボイス制度により、登録番号付きの適格請求書を求められるケースが増えています。
請求書は税務署への説明資料にもなり、あなたを守る保険です。
「面倒だから出さない」はリスクと覚えておきましょう。

法人宛と個人宛の違い

法人では経理証憑として厳密に扱われ、不備があれば再提出を求められることもあります。
一方、個人宛の請求では柔軟さも求められますが、丁寧な形式で発行すれば信頼を得やすくなります。
相手の立場に合わせて、伝わる書式と表現を意識することがポイントです。

フリーランスが請求書に記載すべき基本項目と注意点

請求書には、最低限押さえておくべき項目があり、これらを欠くと、支払い遅延や再提出を求められるなどのリスクが生じます。

この章では、フリーランスが請求書を作成する際に必要な項目と注意点を整理します。

請求書に必須の項目一覧とその意味

請求書は「お金のやり取り」を証明するビジネス文書です。
記載内容に誤りがあると、経理処理が止まり、信頼を損なうこともあります。
以下の項目は必ず盛り込みましょう。

項目名 意味・役割
宛名(取引先名) 請求先の法人名・担当者名を正確に。法人・個人で書き方を変える。
発行日 取引完了日や月末など、実際の請求日を明示する。
請求金額 消費税を含めた総額を明記。源泉徴収がある場合はその金額を別途記載。
振込先 銀行名・支店名・口座種別・口座番号・名義を正確に記載。
請求書番号 帳簿管理や再発行のための識別番号。一意に設定しておく。
仕事内容 業務内容や納品物など、「何に対する請求か」を明確にする。
支払期日 「〇月〇日までにお支払いください」と具体的に記載。

これらは、受け取る側の経理処理をスムーズに進めるために欠かせない要素です。
特に銀行名や口座名義などの誤記は入金遅れにつながるため、自分専用のテンプレートを作って管理するのがおすすめです。

フリーランス特有の注意点:源泉徴収と消費税

フリーランスの請求書では、源泉徴収消費税の扱いに注意が必要です。これらは職種や契約内容によって対応が異なるため、仕組みを理解しておきましょう。

源泉徴収が発生する職種と計算方法

源泉徴収とは、支払側が報酬から所得税相当額をあらかじめ差し引いて納税する仕組みです。ライター、デザイナー、講師、カメラマンなどの報酬が対象で、報酬額から一律10.21%(※)が差し引かれます。請求書には「報酬金額」「源泉徴収額」「差引後の支払金額」を明記しておきましょう。

(※100万円超の一部報酬には別ルールあり。国税庁「源泉徴収のしかた」を参照)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/shikata_r07/01.htm

源泉徴収は「相手が勝手に引くもの」ではなく、契約内容と職種に応じて処理されるものです。対象職種の場合は、明記漏れがないようにしましょう。

消費税を記載するかの判断基準

次に、消費税を請求に含めるかどうかは課税事業者かどうかで決まります。年間売上が1,000万円を超える、またはインボイス登録済みであれば、税率ごとに消費税額を記載します。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月に始まり、課税事業者が発行する請求書には登録番号や税率区分などの記載が求められます。登録していない免税事業者の場合、取引先は消費税の控除が受けられません。そのため、取引先によっては登録を条件とするケースもあります。

登録していない場合でも、税込価格として一括表示し、「消費税を含む」と明記しておけば誤解を防げます。いずれの場合も、自身の事業区分と登録状況を確認し、正しい形式で請求書を作成することが重要です。

フリーランスの請求書の作成方法とおすすめテンプレート

請求書の作成方法には、手書き、Excel・Wordテンプレート、クラウドサービスの利用など複数の手段があります。
この章では、それぞれの方法の特徴と、おすすめのテンプレート・サービスを比較しながら紹介します。

手書き・Excel・Wordのテンプレ活用法

最も手軽なのが、ExcelやWordで作成する請求書テンプレートを活用する方法です。
自分でフォーマットを作る手間がなく、必要な項目を入力するだけで請求書が完成するため、初心者にもおすすめです。

一方、手書きで作成する方法もありますが、枚数が多くなると修正や保管が煩雑になり、
デジタル化が進む現代ではあまり実用的とはいえません。

ExcelやWordのテンプレートを使用する場合は、次の工夫をしましょう。

  • 自動計算機能(消費税・源泉徴収など)
  • 保存の手間(PDF化・管理)

クラウドで管理できない場合、送付履歴や控えの整理が手動になるため、将来的には手間になる可能性があります。

クラウド請求書作成サービスの比較と選び方

クラウド型の請求書作成ツールは、テンプレート機能に加え、自動計算や送付機能、会計ソフトとの連携など多機能なのが特長です。
ここでは、代表的なサービスを簡単に比較します。

サービス名 主な機能 料金 おすすめユーザー
Misoca(ミソカ) 見積・納品・請求書を一元作成。月5通までは無料。 無料〜 月額880円(有料版) 請求書発行が月5通以内の個人
マネーフォワード クラウド請求書 会計機能と連携。インボイス制度に完全対応。 月額1,078円〜 クラウド会計とまとめて管理したい人
freee請求書 スマホ対応・会計連動・テンプレ充実 月額1,628円〜(スタータープラン) スマホ中心で作業したい人

選ぶ際は、「発行数」「管理のしやすさ」「会計との連携」などを軸に、自分の業務スタイルと照らし合わせましょう。

初めての人向け:請求書テンプレの編集例

クラウドツールやテンプレートはあっても、「どこをどう編集すればいいの?」と戸惑うことがあります。
実際に使うときの具体例をもとに、編集ポイントを整理してみましょう。

【例:Wordテンプレートの編集ステップ】

  1. 宛名:取引先の社名・担当者名を正確に入力する(例:株式会社〇〇 御中)
  2. 請求内容:作業内容を箇条書きで具体的に(例:Webデザイン一式/トップページ構築)
  3. 金額:税込表示 or 税抜+税率を明示(源泉徴収を引いた金額を別行で)
  4. 振込先:名義まで入力し、ミス防止
  5. メモ欄:支払い期限・連絡先・備考などを追記

テンプレートは自分の事業内容に合わせてカスタマイズし、1枚で信頼が伝わるよう工夫しましょう。

インボイス制度への対応と請求書の変化

2023年10月に導入されたインボイス制度により、請求書の記載項目や発行方法が大きく変化しました。
この章では、制度の概要とフリーランスに求められる対応、請求書の実務上の変化を整理します。

インボイス制度とは何か?登録番号とは?

インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除を受けるために、取引先が「適格請求書(インボイス)」を保存する必要がある制度です。
請求書を発行する側(フリーランス)は、あらかじめ「適格請求書発行事業者」として登録し、インボイスに必要な記載を行う必要があります。

記載必須項目には、登録番号、税率ごとの金額、消費税額の明示などが含まれます。
この登録番号は、国税庁が発行する13桁の番号で、請求書の上部やフッターに記載されるのが一般的です。

登録番号がない請求書では、取引先が仕入税額控除を使えないため、「今後の取引が継続できない」といった影響も出かねません。

インボイス登録は義務ではありませんが、非登録だと不利になる取引も増えています
自分の収入規模や取引先の状況に応じて判断しましょう。

インボイス制度対応の請求書の書き方

インボイスに対応した請求書を作成するには、以下の項目を明確に記載する必要があります。

  • 登録番号(13桁)
  • 取引年月日・取引内容
  • 税率ごとの消費税額
  • 合計金額(税込)

例えば、10%対象と軽減税率(8%)対象の取引が混在する場合は、それぞれ分けて記載しなければなりません。
登録番号を記載する位置については、社名の横やフッター欄に配置するのが一般的です。

WordやExcelで作成する場合は、フォーマットを変更する必要がありますが、クラウド請求書作成サービスでは、登録番号欄が標準で用意されていることが多く、初めての方にも安心です。

適格請求書の記載要件

以下の6点をすべて満たしている請求書を「適格請求書」と呼びます。

記載項目 内容
① 登録番号 国税庁に登録された13桁の番号
② 取引日 サービス提供日や納品日など
③ 取引内容 商品名・サービス名など具体的に
④ 税率ごとの区分 8%、10%などを明示する
⑤ 税率ごとの消費税額 本体価格と消費税額を区別して記載
⑥ 発行者の氏名または名称 屋号やフリーランス名で可

免税事業者の対応方法と記載例

売上が1,000万円以下であれば、免税事業者としてインボイス登録を行わない選択も可能です。
この場合、請求書には「消費税相当額を含まない」旨を明記したり、税込価格として一括表示したりすることで対応します。

ただし、免税事業者の請求書は取引先側で仕入税額控除ができないため、継続的な取引先からインボイス登録を求められる可能性もあります。
登録するかどうかは、契約形態・顧客の種類・将来の売上規模などを見越して判断しましょう。

インボイス未対応でも仕事はできるのか?

「可能ではあるが、取引先次第」というのが現実です。
特に個人事業主や中小企業との取引であれば、インボイス非対応でも問題視されないケースも多いです。

一方で、上場企業やインボイス管理が厳格なクライアントでは、登録が条件となっている場合もあります。
報酬を下げられたり、取引打ち切りになるリスクもゼロではありません。

制度開始直後は様子見の企業も多かったものの、今後は「登録していて当たり前」の風潮が強まる可能性があります。

フリーランスの請求書管理と税理士・AIツールの活用

請求書は発行して終わりではありません。
保存義務や記帳、確定申告に関わる処理まで含めて請求書業務といえます。
この章では、請求書を効率的かつ正確に管理するための方法と、税理士・AIツールの活用術を紹介します。

請求書の保存義務と電子帳簿保存法

請求書の保存には法的な義務があり、個人事業主であっても帳簿とともに7年間の保管が求められます。
これにより、税務調査が入った際も、過去の取引内容を証明できるようになります。

2022年1月からは電子帳簿保存法の改正により、PDFなどの電子請求書にも真実性・可視性の要件が課され、クラウドストレージや請求書管理ソフトでの保管が推奨されています。

紙での保存も可能ですが、電子で管理したほうが効率的で、紛失リスクも低減できます。
税務対応まで視野に入れるなら、検索性や履歴管理ができるクラウドツールの利用を検討するとよいでしょう。

クラウドストレージとは、Googleドライブなどのオンライン上の保管庫のことです。
中には、セキュリティに優れたお得なストレージサービスもあるので、詳細を知りたい方は、以下をチェックしてください。

▷参考記事:クラウドストレージとは?基本から選び方・おすすめまで完全ガイド【初心者向け】

税理士とクラウド会計ソフトの連携活用

一定の収入を得られているフリーランスの方は、税理士に依頼することで安心と節税を得られる可能性が高いです。

しかし、税理士と円滑にやり取りをするには、請求書や領収書などの資料を整理して共有することが前提となります。

freeeなどのクラウド会計ソフトは、請求書の発行・管理と帳簿作成を連携させる機能があり、
税理士側でも同じプラットフォームを閲覧できる設定をすることで、資料のやりとりを大幅に省力化できます。

また、売上や入金状況をリアルタイムに把握できることで、相談時にも具体的なアドバイスを得やすくなります。

AIを活用した請求書作成とチェックの自動化

近年では、AIによる自動入力・チェック機能を備えた請求書作成ツールも登場しています。
たとえば、以下のような自動化が可能です:

  • 過去の取引履歴から項目を予測して自動入力
  • 金額の整合性や税率のミスを自動チェック
  • 登録番号の抜けや請求先の入力漏れをアラート表示

AIによって単なる請求書作成だけでなく、ミスの予防や習慣化が実現されつつあります。
こうしたツールを使えば、忙しい時期でも請求業務を滞りなく処理でき、安心して本業に集中できます。

請求書のQ&A:読者のよくある疑問に答える

請求書についての基本的な知識や制度対応を理解しても、実際に業務を行う中では細かな疑問が生じがちです。
この章では、フリーランスがよく抱える「あるあるな疑問」に一問一答形式で答えていきます。

請求書を出したのに振り込まれない場合は?

まずは「支払期限が過ぎているか」を確認し、過ぎている場合は、丁寧にメールで催促しましょう。
件名には「お支払いのご確認のお願い」などソフトな表現を用い、本文では「すでにお手続き済みの場合はご放念ください」と添えるのがマナーです。

いきなり感情的になるのではなく、確認ベースでやりとりすることが信頼関係を損なわないコツです。
それでも未入金が続く場合は、契約書の有無や、次回以降の仕事の可否も視野に入れた対応が必要です。

クライアントが個人の場合も請求書は必要?

はい、必要です。
たとえ相手が個人であっても、請求書を発行することで仕事の証拠を残すことができます。
特にトラブル時には、やり取りの記録や請求の正当性を示す材料となります。

SNS経由や知人づての案件など、カジュアルなやり取りでも請求書だけはきちんと出しておくのが安心です。
相手が個人であっても、請求書があればプロ意識がある人として信頼されやすくなります。

無料テンプレを使うときのリスクは?

無料テンプレート自体に違法性はありませんが、内容が古かったり、インボイス制度に未対応だったりする場合があります。
とくに源泉徴収や消費税の欄がなかったり、登録番号の記載欄がないテンプレートをそのまま使うのは避けましょう。

できれば国税庁のサンプルや、信頼できるクラウド請求サービスが提供しているテンプレを使うと安心です。

テンプレートは使い方次第です。
コピーして終わりではなく、自分の取引内容に合わせてカスタマイズすることが前提になります。

領収書と請求書の違いは?

請求書は「支払ってください」と依頼する文書、領収書は「支払いました」と証明する文書です。
つまり、請求書は支払いの前、領収書は支払いの後に発行するのが基本です。

また、フリーランスが業務で発行する場合、請求書には押印不要ですが、領収書は相手の求めに応じて発行し、印鑑を押すこともあります。
ただし、オンライン決済や振込では領収書が不要とされる場面も増えており、最近は請求書のみでやりとりが完了するケースも珍しくありません。

まとめ

請求書は、ただお金を請求するための紙ではありません。
それは「取引が適切に行われた」という証明であり、「この人は信頼できる」と相手に思ってもらうためのビジネス文書です。
特にフリーランスにとっては、名刺やポートフォリオと並ぶ重要な信頼構築ツールでもあります。

請求書の記載項目を正しく押さえ、制度に対応したフォーマットを使い、丁寧に送付・管理することで、
あなたの仕事への姿勢が相手にも伝わります。それは、次の案件や長期的な関係にもつながっていくでしょう。

少しの工夫と仕組み化で、請求書業務はもっとラクに、もっと信頼感のあるものに変わります。
「なんとなく作っていた請求書」から、「選ばれる人の請求書」へ──その第一歩を、今日から始めてみませんか。

請求書の他にもフリーランスが押さえておくべきポイントはいくつかあります。
フリーランスとは?始め方・年収・職種をわかりやすく解説【完全ガイド】にてフリーランスの働き方の概要を網羅的に解説しているので、ぜひチェックしてください。

【更新履歴】2025-11-12 更新