業務改善やチーム提案に行き詰まりを感じているとき、
「自分の発想に限界があるのでは」と悩むことはないでしょうか。
実際、従来のロジックや経験則だけでは、今のビジネス課題に柔軟に対応するのが難しくなっています。
そこで注目されているのが、デザイン思考という問題解決のプロセスです。
一部ではクリエイター向けの手法と誤解されがちですが、実は営業やプロジェクト推進の現場でも活かせる、再現性あるアプローチとして支持を集めています。
本記事では、デザイン思考とは何か?という基本から、実務での活用ステップ、再現方法、さらには導入事例までを具体的に解説します。
自分やチームの視点をほぐし、提案の質を高めたいと考えている方にとって、実践への一歩を踏み出すためのガイドとなるはずです。
デザイン思考とは:業務改善に役立つ思考法の全体像
デザイン思考は、創造的な職種だけでなく、営業や業務改善、マネジメントにも有効な思考プロセスです。
本章では、定義や構造を明確にしながら、アイデア発想法という先入観を払拭し、ビジネスで活かせる全体像を整理します。
思考の幅を広げつつも、論理を保ちたいビジネスパーソンにとって、実務との接続点を見出せる内容です。
デザイン思考の定義と基本構造
デザイン思考とは、IDEOやスタンフォード大学d.schoolを起源とする、問題解決のためのプロセス指向型の思考法です。
単なる創造性重視の方法ではなく、観察と共感を起点に、本質的な課題の発見から解決までを導くフレームワークです。
5つのステップとして、「共感(Empathize)」「定義(Define)」「着想(Ideate)」「試作(Prototype)」「テスト(Test)」が用意されています。
この順番が絶対というわけではなく、現場の状況に応じて前後したり、繰り返すことが前提とされています。
ポイントは、正解のない問題にどうアプローチするかを構造化するという視点です。
複雑な課題に対して、発想や直感に頼らず、ステップを通じて段階的に理解と改善を重ねる点に実用価値があります。
他の思考法との違いと補完関係
デザイン思考は、ロジカルシンキングやゼロベース思考、アート思考などと補完的な関係にあります。
例えば、ロジカルシンキングが既存の情報を整理・分析して正解を導くのに対し、デザイン思考は問い自体を再構築し、まだ存在しない選択肢を探ります。
ゼロベース思考とも共通点がありますが、ゼロベースが既存前提の破壊と再構築に主眼を置くのに対し、デザイン思考は人の感情や行動に立脚する点が異なります。
また、アート思考のように発想の自由度は重視しますが、プロトタイプとテストによる検証という点で、より実務向けに設計されているのが特徴です。
これらの思考法はどれが優れているかではなく、どの局面で、どう使い分けるかが重要です。
デザイン思考が求められる背景と潮流
現代のビジネス環境は、変化が激しく不確実性も高まるVUCAの時代です。
そうした状況下では、過去の成功パターンが通用しないケースが増えており、従来型の意思決定だけでは柔軟に対応できなくなっています。
また、ユーザー視点の重視も背景にあります。
市場が成熟し、よいものよりも意味あるものが求められる今、表面的なニーズではなく無意識の本音=インサイトにアクセスすることが重要です。
このような環境の中で、デザイン思考は仮説→観察→再定義→検証のプロセスを回すことで、現場のリアルな声に基づいた価値創出を可能にします。
デザイン思考は、実際に使われる・選ばれる提案が求められる場面において、有効性が高まっています。
業務提案における“視点の柔軟性”とは何か
「いい提案が浮かばない」と感じるとき、実は視点が固定されていることが原因である場合があります。
特に、顧客や上司の要望に対して「どう応えるか」だけに意識が向いていると、課題の本質を見落とすことにつながります。
デザイン思考は、この視点の柔軟性を取り戻すツールとして有効です。
たとえば、ユーザーの行動観察や感情の分析からスタートすることで、「相手が求めているものは本当にそれか?」という問い直しが自然に発生します。
このプロセスを経ることで、単なる課題対応ではなく、「相手すら気づいていない可能性」へのアプローチが可能となります。
【▼ThinkPrompt】
- これまでの提案で、「相手が本当に望んでいたこと」を取りこぼした経験はないか?
- 問題は提示されているが、「本当の問題」が何かを掘り下げたことがあるか?
- 視点を変えることで、別の選択肢が見えてきたことはなかったか?
デザイン思考の5ステップ:現場で使える形に落とし込む
デザイン思考の価値は、「共感から検証までの5ステップ」に集約されています。
この章では、各ステップの役割と実務への応用方法を具体的に解説します。
それぞれのプロセスが、企画・提案・チーム改善の場面でどのように機能するかを理解することで、現場での再現性が高まります。
共感(Empathize):観察と対話による本質理解
共感は、デザイン思考の出発点です。
デザイン思考の共感とは感情的な同調ではなく、ユーザーや関係者の立場に立ち、背景や文脈ごと理解しようとする知的な行為です。
ビジネスの現場では、顧客やメンバーの発言を鵜呑みにせず、なぜそう思ったのかを探る姿勢が求められます。
例えば、営業活動で「提案内容は悪くないが、何かが足りない」と指摘されたとき、その何かを見つけるための観察やインタビューがこのステップにあたります。
重要なのは、行動や表情、発言の裏にある動機や期待を引き出すことです。
NotionやMiroなどを使って「共感マップ」を作成すれば、チーム内でも感覚を共有しやすくなります。
定義(Define):問題の核心を明文化する
共感から得られた情報をもとに、どの課題に取り組むべきかを絞り込みます。
このフェーズでは、「なぜこの問題を解く必要があるのか」を言語化し、チーム全体での認識をそろえることが目的です。
現場では、見えている課題に飛びつくのではなく、その背景や本質的な要因に踏み込むことが重要です。
例えば若手からの意見がなかなか出てこない場合、「発言しづらい空気がある」「評価制度が不明瞭」といった要素を探る必要があります。
定義ステップでは、ユーザーの“言葉にならないニーズ”を見つけ出し、解決すべき問いを再設定します。
これが後工程すべての土台になるため、時間をかける価値のあるプロセスです。
着想(Ideate):選択肢を拡げてから絞る
定義した課題に対して、できるだけ多くの解決策を出すフェーズです。
このとき、評価や実現性を考える前に、数を出すことが重要になります。
ブレインストーミングやマンダラートなどの技法がよく使われますが、ここで重要なのは枠を外した発想と他人のアイデアを発展させる姿勢 数を出す中で質が高まっていくという原則は、発想力に自信がない人にも有効です。
また、NotionやMiroを使えば、非同期でもチームでのアイデア出しが可能になります。
あえて荒削りな案に光を当てることで、既成概念を超えるヒントが見つかることも少なくありません。
試作(Prototype)とテスト(Test):考えるから動かすへ
アイデアを形にし、実際に使ってもらうのが試作とテストのステップです。
試作とは完成品ではなく、アイデアを見える形にした仮バージョンのこと。
手書きの図や紙の模型でも構いません。
重要なのは、早く作り、小さく試すことです。
社内の小規模チームに提案資料を見せてみる、簡易なアンケートで反応を見るといったアプローチでも十分です。
テストの目的は、気づきを得ることにあります。
そのため、失敗を避けるのではなく、試作と検証を繰り返す中で、ユーザーやチームの理解を深める姿勢が求められます。
5ステップを連続させる設計術
デザイン思考は、ステップを一度きりで使うものではありません。
実際には「共感→定義→着想→試作→テスト→共感…」というように、らせん状に繰り返されます。
この反復性が、新しい気づきや改善の連鎖を生みます。
例えば、テスト結果から共感フェーズに戻って問いを再定義したり、別の着想を試す流れは、イノベーションに欠かせません。
ウォーターフォール型の業務プロセスしか経験がない場合、この柔軟性に戸惑うこともありますが、
「軸を持ちながらも仮説検証を繰り返す」というスタンスは、むしろ今の不確実な時代に適応しやすい構造です。
【▼ThinkPrompt】
- プロジェクトの初期段階で、課題設定や観察にどれだけの時間を使っているか?
- アイデア出しや試作を「失敗しないように」設計していないか?
- 一度決めた方針を、検証後に見直す習慣があるか?
実務で活かす:提案や企画にどう応用できるか
デザイン思考は、製品開発だけの手法ではありません。
営業提案、業務改善、社内プロジェクトなど、実務レベルでの企画や構想段階に応用することで、その効果を発揮します。
この章では、現場の業務にどう組み込めるかを具体的に見ていきます。
提案書・業務改善案の構想段階で活用する
提案書を作成する際、相手の課題にどう応えるかを出発点にするのが一般的です。
しかし、相手が認識している課題は必ずしも本質とは限らず、表面的な要望に応じるだけでは差別化が難しくなります。
そこで役立つのが、共感マップやペルソナを使った課題再定義のプロセスです。
ヒアリングで得られた情報をベースに、顧客の行動・思考・感情を整理し、何に困っていて、何を本当に求めているのかを深掘りします。
例えば、Notionに共感マップ用テンプレートを作っておけば、ヒアリング内容を即座に構造化でき、提案の初期段階でチーム全体の理解をそろえることができます。
チーム内対話のファシリテーションにも役立つ
デザイン思考は、個人の発想法としてだけでなく、チームの対話を円滑にする道具にもなります。
特に、若手メンバーの意見が出にくい場面では、共感から始めるという姿勢が場を柔らかくし、参加を促す効果があります。
例えば、業務改善ミーティングで「何が不満か?」ではなく、「どんな瞬間に違和感を覚えたか?」という問いを投げるなどの対策が効果的です。
共感フェーズのマインドセットをチーム全体で共有することで、結論を急がない議論の土壌が整います。
また、全体をファシリテートする立場であれば、各ステップを意識しながら議論を誘導することで、参加者が思考を整理しやすくなります。
Notionで使えるテンプレート紹介
デザイン思考をチームで活用する際、Notionは非常に相性の良いツールです。
具体的には、以下のようなテンプレートを用意しておくことで、各ステップが形骸化せずに運用できます。
- 共感マップ:顧客・社員の「見聞きしていること」「感じていること」を分類する
- ペルソナシート:想定ユーザー像を明文化し、感情や行動の仮説を立てる
- ビジネスモデルキャンバス(BMC):提供価値と収益構造の整理に応用可能する
テンプレートは一度作れば、使い回しやすく、チーム全体での情報共有・蓄積にも役立ちます。
さらに、各項目にコメント機能を使えば、非同期でのブレストやレビューも可能になります。
現場の制約を乗り越えるには?
「時間がない」「メンバーが乗ってこない」「手間がかかる」──これらは、デザイン思考を導入しようとする際によく聞かれる課題です。
このような制約を乗り越えるには、完璧にやろうとしないことが大切です。
すべてのステップを丁寧にこなすよりも、たとえば共感マップを一度だけ書いてみる、会議の冒頭10分だけ観察結果を共有する、という小さな実践から始める方が現実的です。
また、使えそうな部分だけ切り出して試すという柔軟性も必要です。
現場での心理的ハードルを下げるためには、「これは難しい理論ではなく、会話の質を高めるツールなんだ」という認識共有が有効です。
【▼ThinkPrompt】
- 現在の提案や企画に「感情」や「観察」が組み込まれているか?
- 会議やヒアリングで、「問題の再定義」が行われているか?
- 誰かの仮説ではなく、「現場の声」から発想を始めているか?
導入事例:あるSIerリーダーがデザイン思考を使った実践
理論だけでは、デザイン思考の効果を実感するのは難しいかもしれません。
この章では、あるSIerのプロジェクトリーダーが実際に取り組んだ導入プロセスを追い、どのようにチームが変化していったのかをストーリー形式で紹介します。
再現可能な小さな工夫に注目しながら、自身の現場に落とし込むヒントを得てください。
導入前のモヤモヤと限界
プロジェクトの初期段階で、営業と開発の意見がかみ合わない。
若手は会議でほとんど発言せず、提案資料は通り一遍の内容になっていた──。
プロジェクターリーダーの佐藤さんは、そんな状況に長く悩まされていました。
「何か新しい視点を取り入れないと限界がある」。そう感じた彼は、過去の研修で耳にしたデザイン思考を思い出し、チーム導入を決意します。
ただし、すべてを取り入れるのは難しいと判断し、まずは共感マップの導入からスタート。
クライアントとの打ち合わせ後、Notionにチーム用テンプレートを共有し、各メンバーに観察や印象を記録してもらうことにしたのです。
テンプレートによるプロセス共有と変化
共感マップを使い始めて最初に感じたのは、「チームの見ている景色が少しずつそろってきた」という感覚でした。
同じ顧客の話を聞いても、営業と開発で受け取り方が違う。その違いを、図式化によって可視化できるようになったのです。
例えば、ある若手メンバーが書いた顧客の不安に対するメモが、他のメンバーの視点と組み合わさって提案に組み込むべき項目として浮かび上がる──
そんな場面が何度もありました。
また、Notionのコメント機能を使って非同期で意見を出し合うことで、会議の時間も短縮。
自然と、発言の機会が限られていたメンバーの声が企画に反映されるようになっていきます。
変化後の振り返りと学び
3ヶ月後、提案資料の構成が劇的に変わったわけではありません。
それでも、クライアントからの反応には明らかな変化がありました。
「そこに気づいてくれたのは初めてだ」「うちのこと、ちゃんと見てくれてるんですね」──
そんな言葉をもらえるようになったのは、顧客の感情や行動にきちんと目を向けたからこそです。
佐藤さん自身も、「提案の前に“観察する視点”が身についたのが一番の収穫だった」と振り返ります。
また、メンバー同士が互いの視点を尊重しながら発言できるようになり、結果として提案の精度と納得感が高まったとも語っていました。
この事例が示すのは、特別な道具や劇的な改革ではなく、ちょっとした問い直しと見える化が、チーム全体の視点を変える強力なきっかけになるということです。
まとめ:柔らかく、しかし構造的に考える技術=デザイン思考
デザイン思考は、感覚的なアイデア発想ではなく、観察と対話に基づいた構造的な問題解決プロセスです。
共感から始まり、定義・着想・試作・検証という5つのステップを反復的に活用することで、提案や企画の質を底上げする力になります。
この章では、記事全体を振り返りながら、読者自身の次のアクションを後押しする視点を整理します。
この記事で得られた視点を整理する
本記事を通じて、「デザイン思考とは何か?」という問いに対し、実践的な視点から理解を深めることができました。
特に、「ユーザーの視点を起点にし、正解のない課題にアプローチする」プロセスは、従来の思考法とは異なる力を持っています。
共感によって視点を広げ、定義によって課題の本質に近づき、着想と試作・検証によって形にしていく──
この一連の流れは、営業・企画・チーム設計といったさまざまな業務に横展開可能です。
また、テンプレートやNotionといったツールを用いることで、再現性とチーム共有性を高められる点も確認しました。
明日から実践できるファーストステップ
全てのステップをいきなり導入しようとすると、現場ではかえって負荷がかかる可能性があります。
だからこそ、「一歩だけ踏み出す」ことが現実的かつ有効です。
例えば、以下のような行動が始まりとして適しています。
- 次のヒアリングで得た情報を、共感マップにまとめてみる
- 会議の冒頭で「気になった行動・発言」に注目した観察メモを共有する
- プロジェクトの初期に、チームで「課題の再定義」を試みる時間を設ける
これらのアクションを通じて、デザイン思考が「現場で使える技術」へと変わっていきます。
思考法としての拡張:継続活用のヒント
デザイン思考は、他のフレームワークとも親和性があります。
たとえば、GTD(Getting Things Done)との組み合わせでは、思考の抽象度とタスクの実行性をバランスよく管理できます。
また、ゼロベース思考との対比を通じて、「前提を疑う力」と「人に寄り添う視点」を両立させることも可能です。
さらに、1on1の面談設計や、チーム会議のファシリテーションにも応用でき、日常的な意思決定の質を高める効果が期待されます。
【▼ThinkPrompt】
- これまでの問題解決は、誰の視点を起点にしていただろうか?
- 「共感」や「再定義」のプロセスが、どれだけ意思決定に活かされているか?
- 小さな観察や違和感を、次の提案にどうつなげられるか?
GTDやゼロベース思考については、以下を参考にしてください。