問題を繰り返す現場では、根本的な原因にたどり着けないまま、場当たり的な対処だけが繰り返されてしまいます。

このような困難な課題を乗り越えるための一つの方法として用いられるのが5Why分析です。
5Why分析は問題の本質を捉え、再発防止や構造的改善へつなげるためのフレームワークとして製造業からWeb業界まで幅広く用いられています。

本記事では、「5Why分析とは何か」「なぜ5回なのか」といった理論面はもちろん、実際にどのように使い、現場に落とし込んでいけるのかまでを具体的に解説します。

すでに5Whyを知っている方にとっても、思考の深め方ツールを活用した実践方法の部分で新たな発見があるはずです。

読み進めるなかで、「これなら自分の現場でもやってみたい」と思える具体例や応用パターンを得られるよう構成しています。

5Why分析とは何か?仕組みと考え方の全体像

5Why分析は、「なぜ?」を繰り返すことで問題の根本原因を掘り下げていく思考手法です。
5Why分析は単なる問いかけの連続ではなく、組織的な改善と再発防止につながる構造的思考の入口ともいわれます。
この章では、5Why分析の基本的な考え方と、なぜ多くの現場で活用されているのかを解説します。

5Why分析の定義と目的を整理する

5Why分析とは、ある問題に対して「なぜ?」を5回繰り返すことで、その根本原因(ルートコーズ)を特定しようとする分析手法です。

5Why分析法の目的は、目に見える表面的な原因ではなく、問題の本質に迫ることにあります。
例えば「納期遅延が起きた」という出来事に対し、単に「担当者の対応が遅かった」と結論づけるのではなく、その背景にある仕組みや環境の問題を明らかにするといったアプローチです。

こうした深掘りを行うことで、再発を防ぐ対策や、構造的な改善策を講じることができます
5Why分析は、トラブル対応だけでなく、業務改善や施策の見直しなど幅広いシーンで活用できる汎用性の高い手法です。

トヨタ式から学ぶ5Whyの起源と背景

5Why分析のルーツは、トヨタ自動車の生産方式(TPS: Toyota Production System)にあります。
トヨタでは、現場の不具合やトラブルに対し、安易に個人を責めるのではなく、「なぜ、それが起きたのか?」を繰り返す文化が根付いています。

例えば、機械が停止したという問題に対し、「なぜオイルが切れていたのか?」「なぜ点検がされていなかったのか?」といった具合に問いを重ねていきます。
最終的には「点検マニュアルの不備」や「教育制度の欠如」といった、仕組みの課題にたどり着くことが多いのです。

このような背景から、5Why分析は「人」ではなく「仕組み」に原因を求める文化を支えるフレームワークとして、現場改善の中核に位置づけられてきました。


【▼ストーリー(実例)】
製造業の品質管理を担当するある30代男性は、製品に繰り返し傷がつく問題に直面していました。
最初は担当者の不注意が原因と考えていたものの、5Whyを実施した結果、実際は清掃マニュアルの未整備が大きな原因になっていることにたどり着きました。
そこから定期点検と清掃手順の見直しが行われ、以降のトラブルは激減したそうです。

なぜ「5回」なのか?の心理的・構造的根拠

5回という回数に明確な科学的根拠があるわけではありませんが、これは深掘りができる最低限の回数として実務上最も機能しやすいとされています。

例えば1〜2回では、どうしても表層的な回答にとどまりがちです。
3回目以降でようやく因果関係が明確になり、5回目あたりで構造的な要因や組織的な盲点が見えてくることが多くあります。

心理学の分野では、人間は繰り返しの中でパターンを発見する傾向があり、問いの繰り返しは認知の再編成を促す、ともいわれています。
(出典:Daniel Kahneman “Thinking, Fast and Slow”)

つまり「5回」という数字自体に絶対的な意味があるのではなく、複数回繰り返すことで本当に見えなかった構造をあぶり出せる可能性が高まる**という点が重要なのです。

5Why分析のやり方をステップで理解する

5Why分析は知っているだけでは成果につながりません。
実際に現場で使うには、どのように問いを設定し、どの順序で深掘りしていくかを明確にする必要があります。
この章では、5Why分析を効果的に進めるための具体的な手順を1ステップずつ解説します。

Step1:対象問題の選定と前提共有

5Why分析の成否は、最初に何を問題と捉えるかで決まるといっても過言ではありません。

最初のステップでは、発生している事象と分析すべき問題を切り分け、関係者間で共通認識を持つことが重要です。
例えば「顧客からのクレームが増えた」という現象に対し、それを品質不良の問題とするのか、対応遅れの問題とするのかで、その後の分析結果は大きく変わってきます。

また、問題の背景にある文脈やデータもこの段階で収集しておくと、後のステップでのズレを防げます。
明確な問題定義と合意形成がなされていないと、5Whyはただの空回りした会議になってしまいかねません。

Step2:1つ目の「なぜ?」を丁寧に掘る

最初の「なぜ?」は、問題の構造をほどくポイントとなる極めて重要な問いです。

最初の「なぜ?」は、感情や印象ではなく、事実にもとづいて設定する必要があります
例えば「なぜ納期が遅れたのか?」に対して、「やる気がなかったから」といった主観的回答ではなく、「納品予定データの確認が漏れていた」などの具体的事象で答えるのが原則です。

また、問い手自身が最初から結論を持っていると、回答も誘導的になってしまいます。
そのため、チームで行う場合にはファシリテーターを立て、偏りのない問いと答えを導く工夫が必要です。

初動で曖昧な問いかけや決めつけをしてしまうと、5回繰り返しても根本原因にはたどり着けません。

【▼振り返りポイント】

    例えば

  • 最初の「なぜ?」は“誰もが納得できる問い”になっているか
  • 例えば

  • その問いは感情ではなく、具体的な出来事を扱っているか

Step3以降:2〜5回目の「なぜ」の展開法

2回目以降の問いは、前の答えに対して連鎖的に深掘りしていく必要があります。

例えば「確認が漏れていた」ことに対し、「なぜチェックされなかったのか?」といったように、原因の因果を1本の線でつないでいくのが理想です。
ここで注意したいのは、問いが横に拡散しすぎたり、枝分かれしてしまったりしないようにすることです。

また、思考があるパターンにハマり、仕組みの不備に強引にたどり着こうとするのも避けたいところです。
本当にその構造的な原因なのか、別の視点がないかを慎重に問い直すよう心がけましょう。

チームで取り組む場合は、問いの論点がズレたり、主観が混ざることで混乱しやすいため、ホワイトボードやノートアプリでの可視化が推奨されます。

【▼実例】

中小企業の企画担当者が「報告書の誤記が頻発する」という問題に5Whyを適用した結果、「上長チェックが省略されていた」→「会議の準備に追われていた」→「スケジュールが共有されていなかった」→「スケジュール管理ツールが導入されていなかった」という因果が判明。
最終的にツール導入とルール整備によって、誤記発生率を大きく減らすことができました。

5Whyシートで思考を整理する方法(Notion/Amplenote編)

5Whyの問いと答えの関係は、頭の中だけで整理しようとすると必ず迷子になります。そこで有効なのが、5Whyシートと呼ばれる記録フォーマットの活用です。

Amplenoteというノートツールは、原因→行動への移行を自然につなげられるのが強みです。
思考メモをそのままタスクに変換できたり、双方向リンクで背景と解決アクションを結びつける構造がつくれます。

Notionでは、問いと答えを1行ずつデータベースに整理し、コメント欄でチームの視点を追記できます。
テンプレート化すれば、振り返りや共有も容易です。

このように、ツールの特徴を理解したうえで選定・運用することで、5Why分析が単なる思考整理にとどまらず、現場改善と行動の起点として機能します。

ツールについて詳しく知りたい方は、以下のページを参照してください。
▷参考記事:
【▼振り返りポイント】

    例えば

  • 問いと答えを記録・共有する仕組みはあるか
  • 例えば

  • ツールは“思考”と“行動”を分断していないか

5Why分析がうまくいかないときの落とし穴

5Why分析を取り入れてみたものの、「あまり深掘りできなかった」「根本原因が見つからなかった」と感じた経験はないでしょうか。
この章では、5Why分析がうまく機能しない典型的な原因と、実践時の注意点を具体的に解説します。
分析を形骸化させずに、実効性のあるフレームとして活用するためのヒントを得られます。

質問が機能しないときにありがちな3つのミス

5Why分析が形だけで終わってしまうケースには、共通する3つの落とし穴があります。

  1. 問いの曖昧さ:背景にある事実が不明確だと回答が推測や憶測に頼りがちになる
  2. 材料不足:問題の発生状況や関係者の行動履歴が把握できていないと精度の高い回答が困難になる
  3. 事象の理解不足:理解が浅いまま分析を始めると深掘りの方向性がブレる

このようなミスを防ぐためには、問いの明確化・事実ベースの情報収集・問題定義の再確認という3つの視点を常に意識しておくことが欠かせません

表面的な理由で終わる人の思考パターン

5Why分析で思考が止まってしまう人の多くは、人のミスに原因を求めてしまいがちです。

例えば「なぜ資料にミスがあったのか」という問いに対して、「担当者の確認不足だったから」と結論づけてしまえば、そこで思考はストップします。
しかし、それは単に現象に名前をつけただけであり、構造的な原因を見つけたとは言えません。

こうした状況を防ぐには、人ではなく仕組みに目を向ける視点の転換が必要です。
また、問いを進めていく中で「これ以上掘れない」と感じた場合は、別の角度から問いを立て直す、あるいは一度立ち止まって情報の整理を行うなどの柔軟な対応が求められます。

【▼振り返りポイント】

  • 自分や他者の“性格や感情”に原因を求めていないか?
  • 回答が「~のせいだ」で終わっていないか?
  • “仕組み・環境”という視点で問い直せる余地はあるか?

5Whyを否定する声の背景を探る

「5Why分析って意味ないよね」という意見を聞いたことがあるかもしれません。

このような否定的な意見には、いくつかの背景があります。

  1. 問い方が不適切:浅い問いや思い込みをベースにすると分析が表面的になる
  2. 柔らかい課題への不適合:モチベーション低下や信頼関係などのテーマには5Whyが構造的すぎてフィットしにくい
  3. 個人への原因帰属による副作用:対立や責任追及につながった経験からフレーム全体を否定的に捉える人がいる

こうした声は、5Whyの限界というよりも、活用の文脈や運用設計の問題として捉えるべきです。
他のフレームと併用したり、問い方を調整したりすることで、むしろ柔軟に活用できる余地は大いにあります。

【▼ストーリー(現場での声)】

あるマーケティングチームでは、成果が出ないキャンペーンの原因を5Whyで分析した結果、「担当者の視野が狭かった」という結論に至り、メンバーの士気が大きく低下した。

後に外部ファシリテーターを交えて問い直したところ、KPI設計の不明確さユーザー理解の欠如といった構造的な要因が判明し、チームの視点と対話の質が一気に改善されたという。

5Why分析を仕事に活かす応用パターンと導入設計

5Why分析は、製造業だけで使われる手法ではなく職種や業界を問わず、日々のトラブルや業務改善に役立つ汎用的なフレームです。
この章では、具体的な応用シーンやツールを活用した導入の工夫を紹介しながら、現場への落とし込み方を考えます。

品質管理/業務改善での実践パターン

製造業やバックオフィス業務など、定型的なプロセスが存在する現場では、5Why分析がとても効果的に機能します。

例えば「作業工程でのミスが頻発している」という問題に対して、「なぜチェックが抜けたのか」「なぜ手順が守られなかったのか」と深掘りしていくことで、最終的には「マニュアルの更新が滞っていた」「引継ぎが属人的だった」といった仕組みの不備が明らかになります。

このような現場では、5Whyの結果を標準化マニュアルや教育ツールに反映させることで、再発防止と人材育成の両面で効果を発揮します。

【▼実例】

ある工場では、月に数回発生していた部品の取り違えについて、5Whyを通じて「棚ラベルが不明瞭」「新入社員への指導が属人的」といった構造的問題が判明。
改善後はヒューマンエラーが8割以上減少したといいます。

マーケティング/企画業務での活用例

5Why分析は、マーケティングにおける定量データの異常や施策が機能しない原因を掘り下げる場面でも効果を発揮します。

例えば広告運用で「CTR(クリック率)が低下した」という現象に対し、「なぜ興味を持たれなかったのか」「なぜ訴求が弱かったのか」と問いを繰り返していくと、「ターゲティング設計が甘かった」「LP(ランディングページ)がスマホ未対応だった」といった発見にたどり着くことがあります。

さらに、チーム内での共有や振り返りの場として5Whyを用いることで、感覚での議論から構造に基づいた意思決定への変化が生まれます。

仮説フレーム(例:4P分析やSTPなど)と併用することで、表層と構造を行き来する柔軟な思考が可能になります。

5Whyを導入・定着させるための工夫(ツール活用視点)

フレームワークを導入するだけでは、チームや組織に定着することはできません。

重要なのは活用の仕組みと可視化・共有のルールを整えることです。

例えば、定例ミーティング内で「今週の5Whyタイム」を設けることで、日常業務に自然と組み込むことができます。
Notionなどでテンプレートを用意し、問いと答えを記録すれば、思考のプロセスが見える化され、他のメンバーとの共有もスムーズになります。

Amplenoteを使えば、問いの背景をそのままタスクに変換し、「なぜ→何をするか」までを一気通貫で設計することが可能です。
タスクスコアや双方向リンクを使って、原因と対応の関係性を見える化できる点も魅力です。

また、振り返りのタイミングを固定する、上長からのフィードバックを挟むなど、思考→共有→改善のサイクルを支える仕掛けを設計することがポイントになります。

5Why分析と他の問題解決フレームとの使い分け

5Why分析はシンプルで有効なフレームワークですが、すべての問題に万能なわけではありません。
状況や課題の性質によっては、他のフレームとの使い分けや併用が求められます。
この章では、5Whyの強みと限界を整理しながら、他の代表的なフレームとの適切な組み合わせ方を紹介します。

KPT・フィッシュボーンとの違いと補完性

まず比較対象として挙げられるのが、KPT(Keep・Problem・Try)とフィッシュボーン(特性要因図)です。

フレーム 特徴 適した用途 5Why分析による補完
KPT
  • 業務の振り返りと定期改善に強み
  • Keep・Problem・Tryの三段構成
  • チーム共有に向く
  • 定期的な振り返り
  • 改善アイデアの共有
  • Problem項目に対して「なぜ?」を繰り返すことで根本原因を明らかにできる
フィッシュボーン
  • 人・設備・方法・環境などに分類して原因を整理
  • 構造図として全体像を可視化
  • 複雑な問題の全体整理
  • チームでのブレインストーミング
  • 各枝の要因について「なぜ?」を繰り返して深掘りすることで分析の精度を高める
5Why
  • 「なぜ?」を5回繰り返すことで原因の深掘りが可能
  • シンプルで個人でも実施可能
  • 根本原因の追及
  • 特定の問題に対する掘り下げ
  • フィッシュボーンやKPTの補足ツールとして深掘りを支援

目的に応じて併用することで、構造的かつ柔軟な問題解決が可能です。

柔らかい課題に対応する代替手法

5Why分析は、主に因果のある構造的な問題に向いています。
しかし、人間関係やチームの空気感、モチベーションの低下といった“定量化しにくい課題”には、別のアプローチが有効です。

  • エンパシーマップ:ユーザーの見て・感じて・聞いていることを整理して体験や感情を可視化する手法
  • カスタマージャーニーマップ:サービスや施策を通じた体験の流れを可視化し改善の糸口を提供する手法

このように、問題の性質によっては、構造的要因ではなく認識のずれや体験の設計ミスが根本原因であることもあります。
その場合は、問いの立て方自体を柔らかくすることが必要です。

読者の現場で選ぶべきアプローチを考える

最適な問題解決アプローチは、課題の性質だけでなく、チーム文化や自分自身の思考スタイルによっても変わります。

例えば、細部にこだわる完璧主義傾向が強い場合は、KPTでTryの量を増やす方が有効なこともあります。
また、抽象化が得意な人であれば、フィッシュボーンのような分類型フレームが馴染みやすいかもしれません。

大切なのは、「どのフレームを使えば最も自然に思考が進むか」「チームにとって継続可能な方法か」という視点で選ぶことです。

【▼振り返りポイント】

  • 今の問題は「構造」「体験」「感情」のどこに近いか?
  • フレームの導入が、かえって複雑にしていないか?
  • チーム全体が使いやすい設計になっているか?

KPT法については、以下で詳しく解説しているので、参考にしてください。
▷参考記事:KPT法とは?基本の使い方・具体例・定着のコツまで徹底解説|チーム・個人・1on1にも活用できる振り返り術

まとめ:5Why分析で現場の納得と改善をつなぐ

5Why分析は、複雑な問題に対して「なぜ?」を繰り返すことで、その奥にある根本原因を見つけ出すためのシンプルかつ強力な手法です。
しかし、その効果は問い方の精度や実行環境によって大きく左右されます。
重要なのは、単なる理論としてではなく、現場で使える道具として運用できるかどうかです。

今回の記事では、5Why分析の定義や背景だけでなく、実務にどう落とし込むか、どのようにツールと連携させるか、そして他のフレームとどう使い分けるかを具体的に解説しました。

最も大切なのは、誰かを責めるのではなく、本質的な問いを通じて、仕組みそのものを見直す視点を持つことです。
そのために、NotionやAmplenoteといったノートツールを活用して問いを可視化し、チームで共有する仕組みを整えることが、5Whyを“思考の型”として機能させるポイントになります。

読後のいま、もし「うちの現場にも当てはまりそうだ」と感じるテーマがあれば、ぜひ一度、問いを5回繰り返してみてください。
たった一つの問いからでも、構造を変えるヒントが見えてくるかもしれません。

【▼更新履歴】
2025年6月8日更新